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人口の男女別転出超過格差で長野県が全国1位|女性が男性の10.5倍で県外へ転出

ニッセイ基礎研究所 生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子氏『「男女減少格差、最高エリアは10.5倍」新型コロナ禍2年目上半期、人口の社会減はどこで起こったのか(下)―新型コロナ人口動態解説(11)』より

2021年上半期の総務省「住民基本台帳移動報告」月報を元に作成された、 ニッセイ基礎研究所 生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子氏のレポートによると、長野県の女性は男性の10.5倍で県外へ転出していて、全国で最多となる。

目次

女性を引き付ける首都圏

上半期男女合計で転出超過となった40道府県から減少した9万847人のうち、東京都とその隣接エリア1都3県(神奈川県、埼玉県、千葉県)で90%(8万1800人)を吸収する。

北関東エリアや中部エリアは、東北エリアに次ぐ首都圏への若年労働人口の供給地となっており、特に男性以上に女性が大きく社会減となる傾向が強い。これらのエリアの大学新卒期にあたる女性が選好するような仕事を東京都が多く供給しているために、北関東エリアや中部エリアの労働市場がもつ女性にとっての雇用先の非多様性という問題が顕在化しにくい。ゆえに労働市場の改革が進まない、という構造がある。

長野県は総減少数としては40道府県中28位でさほど上位ではないし、コロナ禍で転出超過が減少したことに目が行きがちではあるが、同県の人口動態問題の最も大きな問題点はそこではない。

コロナ禍という転出抑制が大きく作用した期間においても、全国で最も大きな人口減少の男女アンバランスが生じており、その男女における絶対数を見ると、長野県の社会減問題はほぼ女性人口の転出問題とイコールである、といってもよい、ということがわかる。毎年3月に20代前半の女性人口が東京圏を中心に増加しているという事実から、長野県の社会減問題についても新卒期の若い女性の労働市場問題にある、ということが推測できる。

東京都が女性を惹きつける強い理由の一つとして、2015年に成立した女性活躍推進法の影響が考えられる。同法では、まずは従業員301人以上の事業主に対して、女性の活躍状況の把握や課題分析、数値目標の設定、行動計画の策定・公表などを求めた。また2019年には義務の対象を101人以上の事業主に拡大する法改正が行われた(施行は2022年4月1日)。
 
従業員が301人以上の大企業が数の上でも雇用者数でも最も多いのは東京都であり、全国の大企業の就業者総数と常用雇用者数の実に53%を占めている。つまり、女性活躍推進法によって、東京都所在の企業では女性活躍状況が外部から「見える化」され、そして女性活躍推進が浸透することとなったのである。就職活動をする女学生にとっては、東京都は就業に関する不安を取り除く情報が開示され、透明性の高いエリアとしてうつる可能性が高まった。

東京都が男性よりも女性人口をより多く増加させることとなったスタート年の2009年以降2018年までの10年間に社会増加させた女性人口純増数は、実に37万2千人にのぼる。この37万人という数字は2019年6月ベースで見て、長野県の県庁所在地である長野市、大阪府吹田市、愛知県豊橋市の総人口にほぼ匹敵する規模である。わずか10年で県庁所在地都市レベルの女性人口が、現地の出生率に関係なく社会流出入だけで増加したことになる。わかりやすく言うと、10年間の女性純増数だけで、1つの市が東京都にできる勢いという状況である。この10年間の東京都の女性人口吸引力は驚異的といわざるを得ない。

「地方創生」対策効果を揺るがす、女性人口の一極集中

地方創生では様々な視点で政策が講じられているとは思うものの、もしそれが昭和型の男性吸引力増強志向に立脚した

「男性に仕事を与えれば、それに嫁がついてくる」
「男性に仕事があれば子育て世帯が誘致できる」

という考え方では、女性社会人口増加が強相関をもつ子ども人口を増加させることは難しく、30年後人口(推計値)を増加に転じさせることに成功した東京都のこの10年間の姿とは統計的に見事なまでの逆張り政策となる。

【図表6】あるエリアXに次世代人口が生まれるための4ステップ
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子氏 『人口減少社会データ解説「なぜ東京都の子ども人口だけが増加するのか」(中)-女性人口エリアシャッフル、その9割を東京グループが吸収-』

この図表から、そもそも女性人口の定着なくしてはそのエリアの子ども人口の未来はないことがわかる(出生率はあくまでも「エリア残留した女性」の出生力を示すものであり、それだけでは子ども人口増加の未来を保証しないことに注意したい)。
そして人口移動のグロスデータとネットデータの差からは、男性より少なく転出し、「関所」目線で見れば動いていないかに見える女性たちは、その転出入差という視点で見てみると、男性よりも「1度出て行ったら容易には戻ってこない」という性質をみせていることを、地方創生や少子化政策策定において十分に考慮に入れなくてはならない。

ニッセイ基礎研究 生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

「男女減少格差、最高エリアは10.5倍」新型コロナ禍2年目上半期、人口の社会減はどこで起こったのか(下)―新型コロナ人口動態解説(11)
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=68715

新型コロナ禍2年目上半期、人口の社会減はどこで起こったのか(上)―新型コロナ人口動態解説(10)
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=68609

人口減少社会データ解説「なぜ東京都の子ども人口だけが増加するのか」(中)-女性人口エリアシャッフル、その9割を東京グループが吸収-
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=62042

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